夏休みの魔法


そうだ、こんなのは千来のワガママ。


「…俺たちを騙してたくせに、まだ離れたくない?笑わせるなよ」


信用、していた。


俺を憧れと言ってくれた、大切な後輩。


それなのに。


「…嘘つき」


千来が、傷ついた顔をした。


「嘘ついてまで、芸能界に入ってみたかった?芸能人を見てみたかった?」


どす黒い感情に、支配されていく。


「…こんなこと、みんなが知ったらどう思うだろうね?」


信用していた後輩に、騙されていたと知ったら。


無意識に、手に力が入る。


「…いたい…」


弱々しい声に、はっとした。


ぱっと手を離すと、千来は壁にもたれながらずるずると座り込んだ。


体が、震えていた。


赤くなった手首を見ると、ああ女の子なんだと実感した。


「……一週間。それだけは黙っていてあげる。でも、今までと同じようにはしてあげられないから」


それだけ言いおいて、楽屋のドアを開けた。


「ありがとう…」


背中にかかった声のか細さに、唇を噛みしめた。