夏休みの魔法


「みんなはどうする?」


聞くと、みんなそれぞれに予定があるらしい。


「それじゃあ、北斗と千来くんが残るってことでいいのか?」


「はい、よろしくお願いします」


そっか、千来も残るのか。


仕事、だからな。


…千来にとっては、仕事じゃないか。


「休憩終わりでーす!次、シーン10からです!」


「おっと、じゃあ行ってくるよ」


木崎さんが行ってしまい、俺たちは二人残された。


「…北斗くん、本当に大丈夫ですか?」


「何が?俺は大丈夫だよ」


千来の言っている意味が分からず、つい苛立つ。


「……北斗くん、知っていますか?大丈夫と言う人ほど、本当は大丈夫じゃないんですよ。本当は誰かに大丈夫じゃないって気づいてほしくて、救ってほしいんですよ」


どこかで聞いたことのあるセリフと、またその瞳で、俺を見る。


強い意志を持っていて、俺のことをなんでも見透かしてしまうかのような瞳。


強いその瞳が好きで、惹かれて、でも大嫌いで。


「…千来に言われる筋合い、ない」


そのセリフを俺に言っていいのは、千来じゃない。


言っていいのは、言ってほしいのは……。






どこかで聞いたことのあるセリフ、なんて、嘘だ。


だって覚えてる。


どこで、誰に言われたのかを。