ああ、俺は馬鹿だ。
どうして気づいてしまったんだろう。
もう戻れない。
知らなかったなんて言えない。
心の奥底では、知ってたから。
…ずっと、否定し続けていればよかった。
千来が女の子だという可能性を否定して。
千来があのときの女の子だという可能性を否定して。
千来が木崎さんの子どもだという可能性を否定して。
千来のすべてを、否定して。
……最初から、心を開かなければよかった。
俺の心の中まで踏み込んでくる、うっとうしい他人。
…そう、ただの他人。
そうやって最初から思っていれば、こんなに俺がかき乱される必要なんてなかった。
俺は『俺』でいられた。
うまく『俺』を作ることができた。
千来が…千来が壊した。
『俺』を未知の世界へ引っ張り出してしまった。
…もう、戻れない。

