夏休みの魔法


ああ、俺は馬鹿だ。


どうして気づいてしまったんだろう。


もう戻れない。


知らなかったなんて言えない。


心の奥底では、知ってたから。


…ずっと、否定し続けていればよかった。


千来が女の子だという可能性を否定して。


千来があのときの女の子だという可能性を否定して。


千来が木崎さんの子どもだという可能性を否定して。


千来のすべてを、否定して。


……最初から、心を開かなければよかった。


俺の心の中まで踏み込んでくる、うっとうしい他人。


…そう、ただの他人。


そうやって最初から思っていれば、こんなに俺がかき乱される必要なんてなかった。


俺は『俺』でいられた。


うまく『俺』を作ることができた。


千来が…千来が壊した。


『俺』を未知の世界へ引っ張り出してしまった。


…もう、戻れない。