「北斗くん?どうかしました?」
無意識のうちに、千来を見ていたらしい。
不思議そうに聞かれて、慌ててなんでもない、と答えた。
「それより、楽しみだな、木崎さんの演技」
「そうですね!」
何も気づいていないのか、千来は笑って答える。
そんな千来を見て、胸がズキッといった気がした。
「シーン5、スタート!」
監督の声が聞こえる。
その瞬間、俺にまで緊張が走る。
すっかり役に入っている木崎さんから、目が離せなくなった。
一つ一つの動き、表情のクオリティ。
声、口調。
すべてが、木崎さんと一体化している。
…すごい。
すごく、輝いて見える。
「カット!OK、次!」
監督の声が響くまで、時が止まっていたかのようだった。