夏休みの魔法


蒼は放っておいて、俺は勉強机に近づいた。


そのとき、ブーッブーッとバイブ音がした。


「びっくりした…」


机に置いてあった、千来のスマホが鳴っていた。


ずっと鳴り止まないところを見ると…


「電話じゃない?」


俺はスマホを手にとって、千来に渡そうとした。


…普通に持ったら、そりゃあディスプレイは見える。


故意に見たわけじゃない。


…ディスプレイには、「希来」の文字。


「あ、ありがとうございます」


千来が、ディスプレイを見る。


その瞬間、パッと嬉しそうな顔になった。


「すみません、少し話してきます」


そう言って部屋を出て行く千来を見て思った。


…ああ、大切な人なんだな、って。


いや、それよりも。


「……名前、似てる」


兄弟、か?


ぽつりと呟いた言葉は、蒼には聞こえていなかった。