夏休みの魔法


結局、忙しいだろうに売店まで連れて行ってもらうことになった。


「…なんで僕って方向音痴なんだろうな。家族みんな大丈夫なのに」


「突然変異?」


「……全く嬉しくないです」


こんな不便な突然変異…。


「はい、着いたよ。…お弁当忘れなければよかったのにね。どこか抜けてるよね」


「ありがとうございました。…今日は偶々です」


売店は、8階にあった。


今は何時だろうと思ってスマホを見ると、もう1時30分近かった。


ヤバい、早く買って戻らないと!


「もうパンでいいよね」


「パンなら、これおススメ」


そう言ってお父さんが差し出したのは、フレンチトーストだった。


「お母さんの作ってくれるやつに似てるんだよね…」


ボソッと呟いたその言葉を、あたしは聞き逃さなかったけど、聞いてないフリをした。


「じゃあそれにします」


受け取って買ってこようとしたのに、お父さんはそれを渡してくれなかった。


自分でレジまで行って、会計している。


「ちょっ、自分で払いますよ!」


「別にいいじゃない、これくらい」


「よくないですって!」


「こういうときくらい、甘えときなさい」


…そんなことを言われたら、何も言えないじゃんか…。