夏休みの魔法


「……会いたい人、ですか…。いいですね」


ふっと笑った千来を見ると、なぜか胸が締め付けられる思いをした。


それを消したくて、俺は千来に聞いた。


「千来は?千来は、何を願う?」


「僕は……」


千来は、迷ったように視線を泳がせた。


しばらく、待つ。



「僕は、解けないでほしい。できることならば、このまま……」



普通なら、おかしい言葉だった。


解けないでほしい、なんて。


何が?と聞くところだった。


でも、俺は聞けなかった。



千来が見せた、悲しげな、諦めたような微笑みが、頭に残ってしまったから。



だから、俺は最後の言葉を聞き取れなかった。














「…夏休みの魔法が、解けなければいいのに」