夏休みの魔法


ご飯を食べ終わって、食器を洗う。


石榴と夏日は、午後から予定は特にないらしい。


家でゴロゴロするんだろう。


「悪いな、洗い物までさせて」


「いいですよ、楽しいですし。こんなに仲がよかったら、毎日楽しいですよね」


「そうだな。俺が仕事とかであんまり家にいないんだけど、楽しいよ。…千来も、お兄さんと仲いいんだろ?」


聞いてから、はっとした。


千来は普段一人なんだ。


両親も共働きで、夜遅くにしか帰ってこない。


「ごめ…」

「楽しいですよ。…あんまり会えなくても、大好きです」


言い切った千来は、嘘を言っていなかったんだと思う。


でも、なぜか、悲しそうな顔をしていた。


「千来…?」


不思議に思って名前を呼んだとき、洗い物が終わった。


キュッと蛇口をひねって、千来は俯く。


「……ひとつだけ、願いが叶うなら。北斗くんは、何を願いますか?」


唐突に、そんな質問をされた。


ひとつだけ、願いが叶う…?


だったら、俺は何を願う?


何を……。



俺の頭に浮かんだのは、あの女の子のことだった。


ダメだ、もう吹っ切るって決めた。


みんながいるから大丈夫って思った。


だから、もう思い出したくない。


…なのに、できない。


忘れないで、覚えていて。


俺が、そう訴える。




「俺、は……」





たったひとつだけ、願うなら。









「……会いたい人に、あいたい」







会ってどうする?


結局変われていない、無様な姿をさらすのか?





…俺は、卑怯だ…。




自分で決めたことに、責任を持てない。