夏休みの魔法


30分もすれば、野菜炒めのいい匂いが部屋に充満してきた。


「うまそ~、お前ほんとに料理うまいよな。いつからやってた?」


「そうですね……………忘れました」


「は!?そんだけ待たせて忘れました!?つーか、お前まだ中1だろ、忘れるほど生きてねぇだろ!」


「だったら北斗くん、今までのこと全部覚えてるんですかっ」


うっ…そりゃ覚えてないけど、だけど…


「料理手伝い始めたときくらい覚えてるだろ…」


「僕、そんなに記憶力ないのかもしれませんね」


そうだな、きっとないんだな…。






「ご飯できたぞ~」


「「わーいっ」」


すぐに部屋から出てきて、テーブルのイスに座る。


「美味しそ~!」

「千来くんすごーい!」


「ありがとう」


「じゃあ、いただきまーす」


「「「いただきまーす」」」


野菜炒めを口に入れると、野菜がちょうどよくシャキッとしていた。


味付けもいいし…。


「やっぱりうまいな」


「美味しい!」


「ありがとうございます」


千来は照れたように笑った。


食べ続けていると、ふと石榴の視線に気づいた。


「どうした?」


「……なんか、千来くんって女の子みたいだから…お父さんとお母さんみたい」


「なっ…!何言ってるの、石榴ちゃん!!」」


千来が真っ赤になって叫んだ。


「石榴~、千来は男の子だから。…たぶん」


「北斗くん!?たぶんってなんですか!」


「だって、時々ほんとに分かんなくなるし」


女の子に見える。


ある特定の表情とか、仕草とかが。


そのたびに、そんなことない、あるわけないって自分に言い聞かせる。


じゃないと、ふとした瞬間に重ねてしまう。




気を抜いたら、女の子のように扱ってしまいそうになる。