夏休みの魔法


サンライズスタジオに着いて、待つこと約10分。


向こうから走ってくるちっこいのが見えた。


黒地に白のロゴが入った半袖Tシャツに、薄い藍色のショートパンツ、黒のキャップ。


にこっと笑ってこっちに来る。


「ほくっ…」


名前を呼ぼうとして、慌てて口を塞いでいた。


そんな千来に苦笑いしながら、俺からも近づく。


「おはよ…つーかこんにちは?」


「こんにちは!」


よほど急いで来たのか、額には汗がにじんでいた。


「そんな焦って来なくてもよかったのに…」


「北斗くん待たせるわけにはいきませんよ!」


いや、呼び出したの俺だし。


「…まあ、行こうか?」


歩き出すと、後ろから千来がついてくる。



「それにしても北斗くん、変装とかしないんですか?」


「あー、あんま有名じゃないからな~。してもしなくても意味ないかなって」

「ありますよ!!北斗くん、有名なんですからね!?ファンいっぱいいるんですよ!」


ただでさえかっこいいから目につくのに…とかなんとか、千来が言ってる。


「ははっ、ありがと。じゃあ今度からはちゃんと変装するよ」


「そうしたほうがいいですよ、身のためです」


うんうんと頷く千来。


お前は俺の保護者か…。


「でも、こんなラフな格好してる人に声かけないでしょ」


今日の俺は家から出ないつもりだったから、上下ジャージだった。


上は半袖だけど、下は長いのを折ってる。


「それでも目立つものは目立つんです!だから僕、さっきすぐに北斗くんだって分かったんですよ!」