夏休みの魔法


バンッと扉を開けた。


その音に、二人が驚いてこっちを見る。


「優来…」


名前を呼んだのは、未来にぃだった。


「どうした?もう10時だぞ、お風呂入るか?」


お父さんが、あたしに近づいてくる。


それでも、あたしは俯いたまま何も言えない。


「どうした、何か言いたいことがあるのか?」


優しく、頭をポンポンされた。


収録のときみたいに。


そしたら、なんだか泣きたくなって、辛くなった。


でも泣けない、泣かない。


ギュッと拳を握りしめ、歯を食いしばった。


「…優来、どうしたんだ。言いたいことがあるなら、言ってみなさい」


お父さんが、膝を折ってあたしの顔を覗き込む。


あたしは泣かないように、頑張って声を出そうとした。


でも、うまく声にならない。


何度目かに、ようやく声が出た。





「……おとう、さん…」