夏休みの魔法



振り絞るようなお父さんの声を、あたしは初めて聞いた。


と言っても、会話したことすらあまりないかもしれない。



「…今回のことで、お前たちがどう思ってるかは知らない。だけどな、俺は裏切るようなことはしていない」



「…俺は信じてるよ。お母さんも」




…今日、あの報道陣のなかで受け答えをするお父さんを、初めて見た。


単純に、あの人ごみを怖いと思った。


プライバシーなんて関係ない。


売れればいいんだ。


そんな世界、知らなかった。


お父さんがあの世界で、いつもどんな思いをしてたのか知らなかった。


知ろうと思わなかった。


だって、お母さんを悲しませてたから。


悲しませてる悪いヤツだと思ってたから。




あらぬ誤解を何度もかけられて。


何度も熱愛報道されて。


家族にも会えなくて。


でも、選んだからにはその世界で生きてくしかない。


戦ってくしかない。


そんな世界にいて、一番辛かったのは、お父さんだった。