夏休みの魔法


部屋を出て、リビングに向かう。


リビングにつながる扉を開けようとしたとき、笑い声が聞こえた。


ピタッと、足が止まる。


未来にぃとお父さんが話してた。


なんとなく入りにくくて、あたしは聞き耳をたてた。



「…未来は、最近どうだ。大学、ちゃんと行けてるか?」


「うん、楽しいことばっかだよ。俺、美容師になって、いつかお父さんの髪も切れるようになるから」


「おっ、それは頼もしいなあ。そうなったら自慢してやろう。息子が切ってくれたんだって」


「出たよ、親バカ」


未来にぃがそう言って、二人とも笑った。



…未来にぃには、美容師になるっていう夢がある。


あたしには、何もない。


何になりたいとか、何をやりたいとか。


そういうものが、一切ない。


小さい頃は、きっとあった。

それなりに、子供っぽい夢が。


例えば、お嫁さん。

例えば、ケーキ屋さん。


でもそんなものは、大人になるにつれてなくなっていく。


そんな子供っぽい夢は、捨ててしまう。


あたしは、捨ててしまってから、本当の夢を見つけられていない。


したいことも特にない。


目標もない。


すべてが、中途半端。




COLORFULのみんなみたいに、未来にぃみたいに、そして…お父さんみたいに。


輝ける人になれたら、いいなって。


誰かを、幸せにできたら、いいなって。


少し、そう思う。


もうあたしは高2。


夢ばかり見てるときは終わりに近づいている。


進路のことだってある。



…だけど、もう少し。


もう少しだけ、考えさせて。


夢を見させて。


そう、せめて、この夏休みの間だけ。






だけど、思うんだ。


案外、夢を追い続けてきた人のほうが、うまくいくのかもしれないって。