夏休みの魔法


それから、なぜか蒼が何もしゃべらなくて、沈黙が流れた。

その間に、あたしは自分の部屋に行って、勉強机の椅子に座った。



「…蒼?用ないならもう切るよ?」


言ってみても、返事はなかった。


でも呼吸は聞こえる。


『……優来…』


「ん?」


『………俺、これでもお前のこと心配してんだよ…』


…え?


聞こえてきた蒼の声は、めずらしく弱気だった。


「何?急にどうしたの?」


『…だってお前、はっきり言わないと分からないだろ?こんなに心配してんのに』


「…だって、蒼が心配してくれるなんて意外すぎて」


『ほらな~、そうだよな、お前にとって俺がどういう立ち位置なのかは分かってたつもりだったのにな…』


「は?どういうこと?」


蒼の言葉の真意が見えない。


『……お前にとって、俺は何?』


質問してるのはこっちなのに、質問で返された。


「何って…そんなん決まってるじゃん。幼なじみだよ?」


『だよな…』


「なんで?なんでそんなに自嘲気味に笑うの?」


訳わからない。


蒼のことすら分からないなんて…。


あたし、ほんとに何も分かってないんだ…。