夏休みの魔法



走って、走って、裏口についた。


こんな場所、来たことない。


「…ここからなら、逃げられる…。誰も、来ない…」

千来は肩で息をしながら言った。


「…どうしてこんな場所を知ってる?」


俺が聞くと、千来は視線をはずして辛そうな顔をした。


でも、決心したように口を開く。


「…もしものことが、あったとき…逃げられるようにと…社長に、教えてもらったんです」


社長に…?

どうして…。


みんなも分からなくて、首を傾げていた。


「…とりあえず、今は木崎さんのことだ」


話を戻したのは蒼だった。


「家に帰るのは、無理ですよね?」

「厳しいだろうね」


木崎さんは難しい顔をした。


どうしようか悩んでいたとき。





「……だったら、僕の家に来たらいいんじゃないですか?」





千来の、その声が耳に入ってきた。


…信じられなくて、俺は千来を見た。


千来は俺たちを見ていなかった。


無表情で、瞳には何も映していなかった。