相手の声はさすがに聞こえない。
「…知ってたんだ?」
驚いたような声がした。
「うん、大丈夫だよ。…好きだから」
『好きだから』
その言葉を聞いた瞬間、どうしてか分からない。
ドクンッと、心臓の音がやけに大きく響いた。
話の流れからして、俺のことが、好きだから…ってことだよな?
憧れ…だから…?
いや、それ以外にあっては困るだろ。
自分で自分に突っ込んでいたら、千来がスマホを耳から離した。
どうやら話は終わったらしい。
「千来」
後ろから声をかけると、千来はビクッとしてこっちを見る。
それからは、ちゃんと謝って楽屋に戻った。
俺はほんの一部しか知らない。
俺の聞いていた部分のその前こそ、大切な部分だったなんて。
そんなこと、知る由もなかった。

