夏休みの魔法



「大方、察しはついた。…余計なことを…」


その一言で、あたしは激昂した。


「余計なことってなに!?お母さんはいつもあんたのことを思ってやってんだよ!?」


「優来、父親に向かってあんたはないだろう」



「うるさい!!ろくに家にも帰ってこないクセに、何が父親だ!お母さんのこと、何も分かってないクセに!!」



すると、お父さんははっとしたようにあたしを見た。


「…お母さん、何か言ってたのか?」



「何も言ってない、言わずに一人で耐えてる!…あんたが他の女と遊んでるときにね!!」


「優来、それは誤解だ!」


「事実じゃんか!ドラマとかで絡みあるたびに熱愛報道されて…!お母さんがどんだけ苦しんでると思ってんだよ!?」



これ以上話すことなんてない。


あたしはさっさと屋上を出ようとした。



お父さんの隣を通り過ぎるとき。



「……ごめんな…無理させて」



そんな、弱気な声が聞こえたから、思わず立ち止まってしまった。




それでもはっとして、あたしはまた歩き出す。


「言っておくけど、僕は夏休み中だけ男としてここにいます。…バラさないでくださいね」





それだけ言い残して、今度こそ屋上を出た。