「おい。こいつ天然?」
「どうだろ。可愛いね」

もぐもぐと口を動かす麻理子に笑いかける明治の肩に、難しい顔をした淳也がポンッと手を乗せ、フルフルと緩く首を振った。

「お前さ、そうゆうの誰にでも言うのやめとけって」
「どうして?」
「勘違いする女子がまた増える」
「人聞きの悪いこと言うなよ。失礼しちゃうな」
「わー。「佐野君モード」怖い!怖い!」

付き合いの長い淳也には、どうしても明治の「外面」は恐ろしいものにしか見えなくて。そんな明治を「優しい」だとか「素敵」だとか言って騒いでいる女子達を、淳也は「哀れだ…」としか思えなかった。

「気をつけろよ、楠。アキは天使の顔した悪魔だからな」
「何よ、それ」
「そのうちわかるよ」

意味がわからないわ!と膨れる麻理子の髪を一掬いし、明治は再びにっこりと笑みを作る。所謂「佐野君モード」というやつだ。

「人を外見で判断しちゃいけないってことだよ。わかる?」
「んー。何となく」

ただ平穏に学校生活を送ることが出来ればそれで良い。そのためには最上級の外面も作るし、多少面倒だと思っても色々と引き受けてやる。敵を作るよりは何倍もマシだ。と、腹黒ながらに平和主義な明治はそう思っていた。

「アンタ、お人形みたいな顔してるわね。You are beautiful.」
「よく言われるよ。ありがとう」
「まぁ、アタシには勝てないけど」
「え?それ自分で言っちゃう!?」

ふふんっと鼻を鳴らす麻理子に、思わず淳也がツッコむ。これは面白くなりそうだ。と、箸を進めながら明治は思った。

「アタシをブスだって言う人なんていないわ」
「いや、お前…」
「本当のことよ」

悪びれもせず言う麻理子に、淳也はガックリと肩を落とす。そんな淳也の姿を見て、明治がとうとう笑い声を上げた。

「What's?」
「ううん。何でもない」
「Why are you laughing?」
「マリーがcuteだからだよ」

そうなの?と尋ねる麻理子に笑って頷く明治と、苦笑いのまま何も言えないでいる淳也。中庭に木陰を作る大きな木の根元で、三人の奇妙な関係が始まった。