確か小学生の頃に転入生が来た時は、休み時間になるとその子の周りに人だかりが出来ていたような気がするのに…と、そんなことを思いながら、明治は一人ポツンと残された少女を見つめていた。

「楠さん」
「・・・」

視線だけを動かし、麻理子は気だるそうに明治を視界に入れる。センターパーツに分けた前髪を掻き上げ、少しだけ首を傾げて明治の言葉を待った。

対する明治は、「反応してくれるだけまだマシか」と、小さく心の中でため息を吐きながらもにっこりと笑みを作る。
二限の後の休み時間に話しかけていた芳野は、視界にさえ入れてもらえなかったのだから、と。

「Are you Japanese?」
「Yes」
「Can you speak Japanese?」
「Yes.But I don't speak.」
「Why?」
「Doesn't matter to you. Leave me alone.」

不機嫌そうな麻理子の物言いに、明治はそれ以上言葉を紡げなくなった。

表面上は穏やかに引いたように見せかけているけれど、明治の心中はさほど穏やかでは無い。完璧に自分のキャラを作り上げてしまっている明治は、ここでそれを崩すわけにはいかなかった。

「Mary」

笑顔のまま呼び掛ける明治に、麻理子は目を見開いた。手応え有りだな。と、表情は変えぬままに明治は首を傾げる。

「ん?」
「なっ…何でもないわ」
「そっか」

麻理子が咄嗟に日本語で応えたことには触れず、明治は口元に手を当てて「ふふっ」と軽く笑い声を洩らした。

勝った。

そう確信した瞬間だった。