伊吹くんは視線を下におろした。


「わたしには姉がいるの。

姉はお嬢様のように育てられてね、わたしといったら男っぽく育てられたの。

両親は男の子がほしいって思ってたぐらいだから。

一回だけ、クマのぬいぐるみがほしかったの。

家族でごはんを食べて帰宅途中にショーウインドウに飾られていたふわふわのクマさんをね。

カオルコには必要ないものだよ、って父にいわれちゃって。

でもなぜかクリスマスの日には姉の手元にあのクマさんがいたわけよ。

今でもくまのことをみるとあのときのくやしさが思い出されてね。

つらかった」