別れを惜しむ両親と姉に大きく手を振られ、車に乗り込む。
曇天の空は晴れ間を覗かせることなく、未だぐずぐずと困らせている。

「ほな、気ぃつけて」
「あれ?ホームまで行かないんですか?」

問い掛けた晴人に、吉村は複雑そうに表情を曇らせた。

「いや…行ったら引き止めてまいそうやから。それに、仕事も片付いてへんし、今日はここで失礼しますわ」
「そう…ですか」
「また顔見に行きます。ちー坊のこと頼みます」
「はい」

なかなか降りて来ない二人を不思議がり、先に降りた千彩がコンコンと運転席の窓を叩いた。

「おにーさま、どうしたん?」
「おにーさま仕事行かなあかんから、ここまでな?」
「そうなん?」
「ちー坊、おりこーにしてるんやで?我が儘言うてハルさん困らせたらあかんで?」
「うん!ちさ、いい子にしてる!」
「おりこーさんや。ほな、おにーさま行くからな?」
「うん。またね?」
「またな」

一度ギュッと千彩の頭を抱え、吉村は頬を寄せる。それを黙って見つめていた晴人は、走り去る車に深々と頭を下げた。

「ちぃ、行こか?恵介とメーシーが待ってるわ」
「うん!」

元気良く返事をした千彩の手を握り、改札口へと足を進める。
長かった…と、すっかり慣れ親しんだ地元とはまた違った風景に別れを告げた。