殺した理由

5時間後、13時07分。



静江は台所で、昼食兼朝食(利津は朝食を食べていないから)を作っていた。

質素なものだが、どれも美味しく出来ている。

その証拠に、利津が、香ばしい匂いに鼻をくすぐられ、目を覚ました。

(・・・?・・・いい匂い・・・)

布団から出ると、静かな足音をたてながら、静江の下(もと)に向かった。

ギシ ギシ ギシ 

歩く度に、床が音を鳴らす。

どうやら、古い建物のようだった。

一切、リフォームをしていないのだろう。

だが、利津はこの音が好きだった。

自分でも、分らないが、好きだった。

・・・でも、ひとつだけ、こうではないか?と、考えたことはある。

それは・・・。

「静江。昼食、作ってるの?」

静江はゆっくりと振り返り、微笑む。




あの日、静江は、俺の事情を詳しく問い詰めなかった。

ただ、これだけを説いた。

「何も食べてなかったんだろ?」と。

利津は「もしかしたら・・・」と、思っていたが、思い外れだった。

それが外れてよかったが。

「酷い顔だねぇ。顔を洗ってきな。それから、ご飯だよ。」

利津は縦に首を振った。

洗面所に向かうと、鏡があり、自分の顔が映っていた。

本当に酷い顔だった。

目尻には目脂(めやに)があった。

口の右端からは、涎の跡があった。

利津は蛇口を捻り、顔を洗った。

綺麗に。

その後に、コップに水を注ぎ、口の中に含むと、口の中をゆすいだ。

それが終わり、戻ると、テーブルに皿を置こうとしている静江の姿が見えた。

また「手伝う」と、短くそう言ったら、「ありがとね」と、短い返事をしてくれた。