真剣…。
勿論、気持ちの方ではなく、真の刀という意味だ。
それは、偽物何かじゃなくて、本当に本物の人が斬れる鉄の棒。
その瞬間、さっきまで抱いていた、ほんの少しの希望、淡い期待が崩れ去った。
ここは、確実に過去の世界なんだ。
目の前の煌めく刀に反射された光に目を細目ながらも、そんな考えを巡らせてみる。
しかし、いつまでもぼーっとしているわけにいかない。
このままじゃ確実に殺られる…。
そう思って、気をいれた。
が、何となく相手の空気が伝わってきた。
本気で殺すつもりがないように思える。
顔はすごい喧騒だが、脅かすだけのつもりだろう。
なんて、腰の抜けた奴だ。
もしかしたら、この時代にも法があり、理由のない理不尽な殺人は罪になるのかも知れない。
きっとそうだ。
刀も持ってない丸腰の私なんかを殺してしまったりしたら、きっと向こうが捕まってしまうんだ。
それなら、真剣なんぞ抜くなよ…。
真剣を抜いたということは、それ相応の覚悟があるということだ。
脅しに使うような飾りならやめてほしい。
私は、これでも旧家の娘。
剣道は幼い頃からやっていたし、真剣の重みだって分かっている。
実際人を斬ったことなどないが、握り振るったことはある。
勿論、国に申請してきちんと許可された刀だ。
私が通っていた道場は、示唆柳流家元で、本物の真剣がいくつかおいてあった。
それを何回か触らしていただいたことがあるのだ。
飾りの刀をもった男…。
このような奴が武士をなのっていいのか?
それが許される世の中なのか?
そう思っていたら、自然と体が動いた。
私は、素早く男の懐に入って彼の鳩尾に鉄拳を食らわしていた…。
自分でも、やろうとおもって動いたわけではない。
目の前で男が静かに倒れる。
自然とした怒りが込み上げてきて、体が勝手に拳を振り上げていたようだ。
