「せやかて、見に来るのは可笑しいんちゃうん?
しかも隠れてなんて、後ろめたいことでもあるんか?」



後ろめたいこと…?


「…別にない。」


訳でもないか。


邪魔しないといえど私は芹沢が死んでほしくないと思ってしまっている。

その思いから、少しの後ろめたさを感じていたことには、間違いはないだろう。


自分でもほとんど気づいていなかったな。
無意識に敵地にいるような感覚に陥ってしまっていたんだ…。




山崎…あなどれない…。


「でも、なん
「とりあえず、腕を下ろしてくれ。
気が張ってしょうがない。」



感づかれる前に、畳み掛ける。

私が言葉を遮ったことに不快感を感じたのか眉を潜める山崎。



「あぁ、これはずっとや。
暗殺は何があるか分からない。
常に、準備をしとくことで、いつなんどき何が起ころうとも対応出来るように手を差し込んでるんや。」



さらっとしたように良い放った山崎からは、先程の視線はない。

いや…、勝手に私が自意識過剰になっていただけか?


少し、気を張りすぎだな…。



「…ょ……っ…」



不意に山崎が何かを呟いたようで表情を伺うと、先程の射ぬくような視線を私にむけていた。
私は驚いた。目を見開いていてかなりブスだっただろう。
山崎は瞬間にその顔を戻した。



「ん、なんや?」



先程の面影すらないケロリとした笑みは、先程の視線を見たあとだと、繕ったものにしか見えない。



「…別に。なにもな
「お主ら!!はかったなっ!!!」



私達の視線がバッと芹沢の寝室に向く。


くそ、今だったか…!!



先程の声は間違いなく芹沢のものである。



この声色…。演技だ。




自分は捨てゴマ。悪役として殺されるのが彼の望んだ末路。



暗くてなにも見えず、なかの様子を伺うことは出来ない。



しかし、声はもうしない。
…そういうことだろう。




私は静かに、なにも見えない漆黒を見つめていた。