駆けつけた沖田は、迷いもなく狂気の目で男に刀を降り下ろしていた。
すんでのところで、私が止めたものの、止めなければ確実にこの男は切られていたな。
男はビックリしたのか腰を抜かしている。
腰を抜かした拍子に落としてしまったのか、その手にはもう刀は握られていない。
私は、咄嗟に上手く鞘から刃が抜けなかったので、鞘のまま、沖田の剣を抑える。
「三冷さん、なんで止めるんですか。
退いてください、斬りますよ。」
この男の目は本気だ…。
いつものヘラヘラとした顔からは想像も出来ないほどの狂気で満ちている。
「退かないし、お前に私は斬れない。
あの男を殺す必要はもうないだろう。
女は助かったし、戦気喪失状態だ。」
周りのギャラリーなんかに目を向けると、新撰組同士が争っているからか、不思議な目が向けられる。
あぁ、何となくわかったよ。
あの視線の理由が。
芹沢の素行の悪さだけかと思ってたけど、そうでもなかったんだな。
「あの男は刀を抜きました。
殺る以外に何があるのでしょう。
本当に斬りますよ。」
こういう所か。
新撰組の奴等は、毎回こんなこと当たり前に殺してきたんだろう。
そりゃ、嫌われるさ。
相手にどれだけ非があったとしても、これだけのことで殺すことはないのに。
「殺すことはないだろう。
剣術なら私が勝つ。お前に私が斬れるわけない。」
「いや、斬れます。
確かに貴方は私よりも剣術にたけていますが、殺意がない。
私は、貴方がそこを退かない気なら、死ぬまで貴方を殺しにかかります。
貴方に私は、殺せない。
でも私は、貴方を殺せる。
圧倒的な手加減がついてますから。」
ハンデか…。
確かに私は、殺意はない。
人を殺したいとも思っていない。
はっきりとした殺意を持っている者と持っていない者とがやり合えばきっと、殺意を持っているもののほうが有利だ…
本気でかかっていないのだから。
「退いてください。」
…さぁ、どうしようか。