紅虎のつけている香水と鼻先を掠めて、さっきまでガムを噛んでいたのか唇はミントの味がする。


 完全なる不意打ちのキスに花束を落としてしまった。


 目と口が開いたまま塞がらない。


 い、今、キスした?


 「せっかくの花束を落とすなよ。」


 紅虎が拾ってくれた花束を受け取ると、


 「There's nothing like a first kiss, don't you think so? ・・・8本分の埋め合わせになっただろ?」


 くすりと笑うとそう呟いた。


 紅虎が英語の所は何て言ったか解らなかったけど、あたしは大きく首を縦に振っていた。


 紅虎はそのまま方向転換し、伸びをすると、中に向かって歩き出した。


 「あの・・・お兄ちゃんの乗った飛行機、見送らないの?」


 やっと出て来た言葉を紅虎に投げかけると、


 「already gone」


 とすたすた歩きながら振り向きもせずに答えた。


 慌てて滑走路を振り向くと、飛行機はあった位置にはもういなく、上昇する機体の光だけが夜空の彼方に見えていた。


 「ま・・・待って!」


 慌てて紅虎の後を追う。




 「ファーストキスって最高だろ。そう思わない?」あの時の紅虎の言葉が、いつかリビングで見た恋愛映画のセリフをもじったものだと解ったのは、ずっと後になってからだ。



                                                        FIN