「そっか、ありがとう。ごめん、花には迷惑を掛けてばかりだ」
ううん、そんな事ないと首を振る。
ひんやりと口の中に広がる黒蜜の甘みとわらび餅の食感を楽しみながら、抹茶で喉を潤す。
少し笑顔になったお兄ちゃんの瞳をまっすぐ見つめた。
「美空さん、金曜日でルビーママのお店辞めるんだって。でね、その週の日曜日に結婚式を挙げるんだって」
「・・・それを俺に話してどうするの?」
「どうもしない。ただ、情報として話しただけ」
お兄ちゃんは眉根を寄せ、困ったような表情をしていたけれど、また窓の外に視線を向けていた。
どんよりと曇り空の広がる1日だった。
バイトが終わると、そのまま商店街を抜け、電車に乗り込んだ。
2駅先の駅で降り、駅前のロータリーを通り過ぎ、路地裏に出た。
ネオンや看板が出る前の裏通りは殺風景だった。
そのまま通りを進み、コンクリートむき出しの古びたビルの前まで来た。
錆びた階段を上り、上り切ると扉が閉まっているのを確認して、今、自分が歩いてきた路地を眺めた。
すぐにでも泣き出しそうな空からポツポツを雨粒が落ちてきたと思ったら、すぐに本降りになった。
幸い、階段にはテントのようなビニールの屋根があり、所々破れている箇所がありつつも、雨を凌ぐには十分だった。

