妄想が広がっていく。
何を考えているんだ俺は、相手は今会ったばかりの女性だ。
お兄ちゃんは頭に浮かんでくる邪な考えを吹っ切って仕事を続けた。
騒ぎが起きたのはそれから2時間後、彼女の入ったブースで、悲鳴が上がった。
始発待ちをしていたサラリーマンが自分のブースと間違えて彼女のブースに入ってしまったのだ。
眠っていた彼女にサラリーマンは覆い被さるように倒れ込んできたらしく、静かな店内に彼女の悲鳴が響き渡った。
慌てて駆け寄り、もう1人のスタッフと一緒にサラリーマンを自分のブースに戻し、動揺する彼女を気遣った。
「驚かせてしまってすみません。寝ぼけたお客さんがブースを間違えたみたいです。もう、大丈夫ですよ」
にこりと笑って、その場を離れようとしたら、エプロンの裾を引っ張られた。
「すみません、あと30分で始発なんで、少しここにいて貰えませんか?」
彼女の震えた指先と、涙が溜まった瞳を見た瞬間、お兄ちゃんは恋に落ちた。
「その時に何を話したとかじゃないんだ。ただ、彼女を不安にさせたくなくて、声を掛けてたんだ。それがきっかけで、たまに彼女の方から店に顔を出してくるようになって、挨拶を交わすようになって、連絡先を交換した」
外で会うようになってから、お兄ちゃんはどんどん彼女に惹かれていった。
ある日、思いつめた表情で彼女は自分の事を語った。
シングルマザーで3歳の息子がいる事。

