「・・・知ってたんだ。そう、彼女を見かけて咄嗟に逃げた」
ふぅと小さくため息を吐き、お兄ちゃんは両手を組んだ。
寂しそうに笑ってから、
「彼女と初めてあったのは去年の秋、夜通し雨が降った肌寒い日だった」
ゆっくりとした口調で語り始めた。
彼女の名前は清野美空(せいのみそら)さんという。
お兄ちゃんが働くインターネットカフェに彼女は現れた。
客もまばらな深夜、ドリンクバーのクリーニングをしていると、雨に揺れた髪をハンカチで拭きながら、彼女は入り口に立っていた。
「きっと、一目見た時から彼女に惹かれてたんだと思う」
華奢な体に細くて長い指。
伝票を渡した時に一瞬見せた笑顔に魅せられた。
美しい人だと思った。
終電に乗り遅れたのだろうか?
始発が出るくらいまでの時間のパックで彼女はブースへと入って行った。
彼女の髪から微かにタバコの香りがした。
禁煙ブースを選んだ彼女は喫煙者ではないようだ。
ということは、男の人と会っているのだろうか?

