6月某日。


 最寄りの駅から電車を乗り継いで鎌倉にやって来た。


 お天気はあいにくの雨。


 梅雨時期なのでしょうがない。


 車内アナウンスが降りる駅を知らせ、電車がホームに着くと、混み合った車内のほとんどの乗客が降りた。


 田舎の無人駅のような小さい駅でも、この時期は人で溢れんばかりになる。


 やっとの思いで構内に出ると、人の流れについて歩いて行く。


 鮮やかな傘を差して歩く人々の列がこれからあたしたちが見に行くアジサイのようにも見える。


 「雨降ってるのにすごい人だね。やっぱりこの時期は混むんだね」


 「わらび餅だって、おいしそう」


 明るく訊ねてみるものの、お兄ちゃんの返事は「あぁ」のみでどこかうわの空だ。


 今日の天気と同じ、お兄ちゃんの心にも雨がしとしとと降り続けているに違いない。


 「うわぁ~、すごいよ、お兄ちゃん見てよ。アジサイの壁みたい」


 アジサイ寺と呼ばれている寺に着く手前、道の右側に青紫色のアジサイが咲き乱れている場所があった。


 ブロック塀がいくつか重なって、段になっている上には数10mに渡ってアジサイの壁が続いていた。


 後でシェアハウスのみんなに見せようと携帯のカメラで撮影していたら、お兄ちゃんはふらふらと先に歩いて行ってしまった。