バイトから帰って来ると、サンゴちゃんがテラスの前の花壇に苗を植えていた。


 「ただいま、サンゴちゃん」


 後ろから声を掛けると、サンゴちゃんはびっくりして尻餅をついた。


 「あ~、びっくりしたわ~。おかえり、花」


 「ごめん、驚かせちゃった?何植えてるの?」


 「イタリアントマトとバジルの苗よ。梅雨入りする前に植えちゃえって思って」


 サンゴちゃんはスコップ片手ににっこりと笑う。


 植え替えはすでに終了していて、置き肥を蒔いていた。


 昨日まで雑草が伸び放題だった門扉から続く庭と花壇は、しっかりと手入れされていた。


 「裏庭には植えないの?春の花がだいぶ伸びてきたけど」


 「裏庭には梅雨が明けたら、夏の花を植えようかと思ってるの野菜やハーブを植えたらロミが悪さしちゃうんじゃないかと思って。敢えてこっちに植えたの」


 「へぇ、家庭菜園か。ここで育ったトマトとバジルが食卓に並ぶとか?
  楽しみだね」


 でしょ?サンゴちゃんが頷く。


 トマトの苗の青臭い匂いって好き。


 「イタリアントマトって細長いトマトだよね?」


 「そう。日本のトマトの方が甘みがあっておいしいんだけど、イタリアントマトの方が水分が少なくて料理には適してるのよ。ピザとかパスタとか。家庭菜園だから農家の人たちが作ったものと比べるとたがが知れてるだろうけど」