サンゴちゃんに春が来た。


 リビングのテーブルにはピンクのガーベラが生けてある。


 最近はかわいい花を生けることが多くなっている。


 鼻歌交じりに廊下で掃除機をかけている。


 「サンゴちゃん、今日もご機嫌だね」


 にやりと笑いながらわき腹をつつくと、いやんと乙女な反応が返ってきた。


 恋をして、好きな人と両思いになるって、幸せなことなんだな。


 サンゴちゃんを見ていると実感する。


 残念ながら女子高出身のあたしにはろくな恋愛経験がない。


 「花、バイト?」


 うんと頷くと、日曜なのに大変ね~行ってらっしゃいと声を掛けられた。


 サンゴちゃんに手を振り、家を出る。


 ステップを降り、振り返った。


 テラス席にいつもいる紅虎の姿はない。


 日曜日の午前中は静かで寂しい。


 お兄ちゃんと紅虎は学校が始まって、忙しそうであまり家にいない。


 お兄ちゃんはバイトも入れてるし、紅虎に関してはどこに出掛けて行くのかよく解らない。


 奈々は平日、会社から帰ってくると夜出掛けて深夜の帰宅の繰り返しで、休みの日は夕方近くまで寝てることが多い。