「気になるんだよ……」

孝太郎は奈緒の耳元でそう呟いた。

「……俺はお前のこと、好きだから」

心臓が止まるかと思った。

「……ずっと、好きだった」

そう言って、孝太郎は腕にぎゅっと力を入れた。

「うそ……」

だって、年上の人とつき合っていたって、この前言っていたじゃない。

そんなことを突然言われても……。

トクン、トクン。

鼓動が孝太郎に伝わってしまう。

奈緒を抱きしめるその腕にはますます力が入る。

「孝太郎……痛い」

「ごめん……」

孝太郎はようやく腕を解き、黙ったまま奈緒を見下ろした。

奈緒は孝太郎の顔を見られずに、ずっとうつむいている。

気まずい沈黙が流れた。

どうすればいいのだろう。

孝太郎になんて言えばいいのだろう。

私は……どうしたいのだろう。

孝太郎のことは好きだけど。

だけど……。

阿久津の顔が浮かんだ。

でも、あんなことになってしまって。

それでもまだ先生のこと、ずっと気になっていて。

でも、先生、なにを考えているのかわからなくて。

先生は、遠くて。

目から涙がこぼれ落ちた。

限界だった。