絶対、怒っている。

間違いなく、怒られる。

うつむいたまま、突っ立っていると。

阿久津は腰に手をあて、盛大なため息をついた。

「人の心配をする前に、自分の心配をしてください」

怒っているというより、完全に呆れているようだ。

「……すみません」

「君が私の心配をする必要などない。そもそも君には、どうすることもできない」

……そこまで、はっきり言わなくても。

わかっている。

自分なんかにどうすることもできないことくらい。

それでも、先生のことを考えてしまう。思ってしまう。

好きになってはいけないと思えば思うほど、思いは募り胸を締めつける。

いつの間にか、唇を噛みしめていた。

「……もういいですから。行きなさい」

阿久津は髪をかき上げながら、呆れたようにため息をつき、奈緒に背を向け書類を片づけ始めた。