「買い物ですか?」

阿久津の足元にある紙袋を見て、君島が尋ねた。

「ええ」

それで、会話が途切れてしまった。

タイミングを見計らったように、マスターが阿久津の前にコーヒーを置く。

「ありがとう」

阿久津は、カップに指を絡ませ、ゆっくりとコーヒーを流し込んだ。

「ああ、おいしいな」

思わず笑みをこぼした阿久津を見た君島は、

「あ、今の、殿堂入りだな」

と、ひとりごちた。

阿久津が首を傾げていると、

「阿久津先生、コンタクトにしたんですね。眼鏡ナシもイケメンだ」

と言って、阿久津の顔を眺めた。

すると、阿久津はくすりと笑って、

「あれは、伊達眼鏡でした」

と言った。

「伊達眼鏡?」

「まあ、鎧みたいなものです」

自嘲気味に笑った。

少しでも自分を守るために、心に踏み込まれないように、レンズで壁を作っていたのだ。