「そうだ」

阿久津は、自分のカバンの中から水色のリボンのついた小さな箱を奈緒に差し出した。

「これは?」

「卒業祝いです」

奈緒がふと見上げると、阿久津は小さくうなずいた。

「ありがとうございます。……開けてもいいですか?」

「どうぞ」

水色のリボンを丁寧にほどき、ふたを開けると、中にはブランドものの腕時計が入っていた。

「こんな高いもの……」

思わず阿久津の顔を見上げると、阿久津は穏やかなまなざしを向け。

「これからは、少し離れ離れになります。だけど、俺は、君と……奈緒と、同じ時間を刻んでいきたい」

初めて下の名前で呼ばれて、胸がきゅんとした。

そして、しっかりとした意志の強さを感じて、じんとした。

「奈緒が専門学校を卒業したら、俺は、必ず迎えに行きます」

阿久津は、まっすぐ奈緒を見つめた。

「はい」

奈緒は阿久津をしっかりと見つめ、ふんわり微笑むと、涙が頬を伝った。

阿久津は奈緒を抱き寄せ、強く強く抱きしめた。

そして、両手でそっと奈緒の顔を包み、優しく唇を重ねた。