マンションを見上げると阿久津の部屋には、明かりが灯っているように見えた。

鼓動が服の上からでもわかるくらいに、どきどきと波打っている。

何度深呼吸をしても、酸素が足りない。

最後にもう一度、大きく息を吐き出し、震えそうな手で阿久津の部屋番号を押した。

部屋に明かりが灯っているのだから、先生はおそらくいるはず。

呼び出し音の後の沈黙が、やたらと長く感じた。

いてもたってもいられなくなってやって来たものの、深夜にいきなり押しかけて、迷惑だったかもしれない。

応答のないインターホンの前で今更そんな後悔をし始めた頃。

「どうしたんですか?」

モニターで奈緒の姿を確認した阿久津の声が玄関ホールに響いた。

「せんせ……」

「とりあえず、中へ」

奈緒が言い終わらないうちに、阿久津は玄関のロックを解除した。