窓の外を流れていく景色を眺める。

はやる気持ちとは裏腹に、週末の繁華街は渋滞していてなかなか進まない。

赤信号がもどかしい。

『せめて、一度だけ、話を聞いてあげてください』

マスターの言葉とともに、アパートの前で立ち尽くしていた阿久津の姿を思い浮かべた。

ゼミの最終日に見せた、阿久津の切なげな瞳を思い浮かべた。

先生は、私になにを伝えようとしたのだろう……。

『阿久津くんを救えるのは、やっぱり愛だと思うんです』

『阿久津先生には、奈緒ちゃんが必要ってことだよ?』

頭の中をぐるぐると駆け巡る君島先生たちの言葉は、未だ半信半疑だけれど。

キスを目撃されたショックは拭い去れないけれど。

それでも、もし、私にできることがあるのなら、必要としてくれているのなら、こんなに嬉しいことはない。

淡い期待と、なにを言われるかわからないという不安とが入り交じり、少し息が詰まる感じがした。