「私……行かなくちゃ……」

いてもたってもいられなくなり、立ち上がり、店を出ようとすると、君島に手首をぐいっと掴まれた。

「落ち着いて。ここからどうやって行くつもり?」

「今すぐタクシー呼ぶから」

シュンがウインクして見せた。



ほどなくしてタクシーが到着すると、

「釣りはいらない。この子をちゃんと、送り届けて」

君島はタクシーの運転手に札を握らせた。

「先生」

「もし、失恋したら、また僕らと飲めばいいさ。いくらでも付き合ってやる」

「うん」

「後悔だけはしないようにね」

そう言うと、君島は後部座席のドアを閉めた。

奈緒はあわてて窓を開け。

「先生!ありがとう!本当にありがとう!」

「さあ、早く」

「うん」

君島は、軽く手を挙げ、走り去っていくタクシーを見えなくなるまで見送っていた。