「どうしたんだ?って聞いても、もういいんです、しか言わないんだよ。今までならなんだかんだ言いながらも、僕にいろいろ打ち明けてくれてたのに」

「うん」

「しばらくは、そっとしておこうと思ってバイトの様子を眺めていたけど、ちっとも復活してこないしさ。こりゃそっとしておいたら、そのうち妙なことしでかすかも、ってこっちが不安に駆られたよ」

「リンちゃん」

「ん?」

「相変わらず、人のことには強いよね」

「相変わらず、一言多いな」

そんな軽妙な二人のやり取りにも、奈緒はくすりとも笑わない。

二人は眉を下げて、顔を見合わせた。

「奈緒ちゃん。なにがあった?」

君島は頬杖をついたまま、隣りに座る奈緒の顔をのぞき込む。

奈緒がなにか言葉を発するのを、根気よく待っている。

しかしその間も、奈緒はうつむいたまま首を横に振るだけだった。

「ほら、おいでよ」

君島は、奈緒の肩にそっと手を回し、自分の胸の中へ引き寄せた。