「はあ……」

ため息ばかりが漏れる。

『阿久津くんは理由もなく約束をすっぽかすような人ではないと思います』

『せめて、一度だけ、話を聞いてあげてください』

人のことに口を出さないマスターが、あんなにきっぱりと突っ込んだことを言うこと自体、戸惑ってしまう。

……なにかは、あったのだと思う。

マスターがあそこまで言うのには、理由があるのだと思う。

だけど。

だけど……。

今更のこのこと、「どうしたんですか?」なんて、聞けない。

聞けるはずがない。

そんな立場じゃない。

「はあぁ……」

「これは本当に重症だ」

「だろ?」

何度目かの奈緒の大きなため息を聞きながら、シュンと君島は穏やかなまなざしを向けている。

「うむ。あからさまに苦悩に満ちている」と君島に言われ、再びシュンの店Bar Moonに連れて来られていた。

「飲んでぱ~っと忘れちゃいな、なんてセリフも言えるような雰囲気じゃないね」

「だろ?」

シュンが作ってくれたファジーネーブルの氷がすっかり解け、せっかくのカクテルが水っぽくなってしまっている。