翌日。

奈緒は、逃げてしまいたい衝動に駆られながらも、加菜の後ろに隠れるようにして阿久津の研究室へ入った。

奈緒は俯いたままで、阿久津がどんな表情をしているのか、確かめる勇気がなかった。

いつもどおり、みんなで机を囲み、淡々と進む授業。

最後の授業なのに、感傷に浸る余裕なんて、まったくなかった。

そして、いつもより早く授業を切り上げた阿久津は、生徒を見渡した。

奈緒のところで一瞬視線が止まったが、うつむいていた奈緒はそんなことに気づくはずもなく。

「みなさんには、ゼミを通して、研究テーマをレポートにまとめるという作業をしていただきました。この作業は、社会に出てからも必要なスキルです。卒業してからも、それぞれの道で頑張ってください」

阿久津は、淡々と述べる。

「今日でゼミは終わりです。お疲れさまでした」

阿久津が軽く頭を下げると、みんなも静かに頭を下げた。

筆記用具を片づけ始めたその時。

「先生」

美穂が阿久津を呼んだ。