「奈緒?」

学食で奈緒と向かい合って座っている加菜が、奈緒の顔をのぞき込む。

ぼんやりしている奈緒は返事をしない。

「奈緒ってば!」

「あ、う、うん。なんだっけ?」

「もう。だから、明日でゼミ終わりなんだから、明日は顔を出さないとまずいんじゃないの?」

そう。

奈緒は、年明けから未だに、ゼミの授業だけは出られずにいた。

「そうだよね……」

だけど……。

先生の顔を見るだけで、泣いてしまいそうだ。

失恋したうえに、キスしているところまで見られてしまうなんて。

もう、どこかに行ってしまいたい。

早く卒業したい。

「大丈夫?」

奈緒の失恋を孝太郎から聞いていた加菜は、奈緒がゼミを休む理由も、阿久津のことも、あえて聞かずにいた。

「うん」

奈緒は無気力にうなずく。

「単位取れないと、まずいもんね」

奈緒は力なく笑った。