「こんなことになるんだったら、最初からクリスマスの約束なんて、OKしてほしくなかった」

「ほんとだね。奈緒ちゃんの言うとおりだ」

なぜそんな中途半端なことをしたのだろう、と思いながら君島は頬杖をついてぼんやりと宙を眺めた。

少し沈黙が訪れたその時。

「どうぞ」

マスターは君島の前に、君島スペシャル(カフェオレ砂糖たっぷり)をそっと差し出した。

「ねぇ、マスター」

君島の呼びかけにマスターは少し首を傾げ、穏やかな表情を向けた。

「いったい、なにがあったの。阿久津先生は」

奈緒もマスターの顔をじっと見つめる。

マスターはうつむき、しばらく黙っていたが、

「ひとつ言えることは、阿久津くんは理由もなく約束をすっぽかすような人ではないと思います」

と言って、カップをひとつずつ丁寧に棚へ片づけた。

もしそうなら、先生、なにがあったんだろう。

奈緒の眉間にしわが寄る。

「マスターは口が堅いね。やっぱり信頼できる人だ」

君島はにやりと笑って、甘いカフェオレを口に含んだ。