冬休みも終わり、奈緒はいつもどおり喫茶店でウエイトレスをしていた。

店内の柔らかいランプの明かりが優しくて、胸に染みてくる。

ここはいつも穏やかな時間が流れていて、まるで異次元のようだ。

深い傷も優しく癒してくれる。

奈緒は学校には通っていたものの、ゼミの授業はサボっていた。

阿久津の顔を極力見たくなかった。

今日、たまたま廊下ですれ違った時も、俯いて早足で阿久津の横をすり抜けた。

まさか、阿久津が振り向いて、声をかけようとしていたことなど、知る由もなく。

後期の試験が終われば、長い春休みに入って、私は短大を卒業する。

そうすれば、私は地元に戻って、専門学校に通って。

新しい生活を始めるの。

もう、阿久津先生の顔は見なくて済む。

この恋を過去にできる。

それに、新しい出会いだって……。

「はあ……」

思わず声に出して大きなため息を漏らしてしまっていた。

「ずいぶん大きなため息だねぇ」

君島はいつもの席で頬杖をつきながら、奈緒を見上げる。

奈緒は黙ったまま力なく笑った。