……。

……だけど。

あんな弱り切ってしまった父さんの姿を見せられたら……。

……俺だって、自分の気持ちがわからないんだ。

阿久津は無意識にこめかみを押さえていた。

「涼介。俺が由美ちゃんの立場だったらな。お前には幸せでいてほしいって思うぞ。自分のせいで苦しんでるなんて、辛すぎるじゃないか。なにもな、由美ちゃんや隼人を忘れろなんて言ってるんじゃない。ただ、お前は生きていて、未来があるってことだ」

阿久津はパフェにスプーンを突っ込んだまま、動かない。

「未来、か」

その言葉で、ふと奈緒を思い出した。

彼女には未来があるから、と自分から遠ざけた。

あの時、自分の未来のことなんて、まったく考えられなかった。

思いつかなかった。 

俺は。

生きている。

俺の時間は、動いている。

そんなことさえ、忘れていた。

俺は……。

自分の幸せを考えていいのだろうか。

自分の幸せって……なんだ?

『先生がどんな人でも……やっぱり、どうしても……好きなんです』

そっと触れた、奈緒の唇の感触が蘇ってきた。

まっすぐな彼女の瞳が、不器用に自分を見つめている。



俺は、もう一度、人を愛してもいいんだろうか。