年末。

圭介の電話を受けて、阿久津は渋々故郷へ足を運んだ。

由美が亡くなってから、初めての帰省だった。

電車を乗り継ぎ、山間の町に降り立つと、目の前は銀世界だった。

駅前のロータリーを見渡すと、圭介の車を見つけた。

助手席のドアを開け、「兄さん」と声をかけると、

「ああ。久しぶりだな」

と、圭介は笑顔を向けた。

「こっちは寒いだろう?」

圭介はサイドブレーキを下ろし、アクセルを踏んだ。

「うん」

阿久津はウインドウに頬杖をついて、流れていく懐かしい景色を眺める。

スポーツ用品店の前を通り過ぎたとき、ふと、父・正太郎との思い出が蘇ってきた。

銀行マンだった正太郎は、仕事人間で、ほとんど家庭を顧みない父親だった。

しかし、阿久津が小学校高学年の頃、このスポーツ用品店で唐突にグローブを買ってくれたのだ。