「研究室へどうぞ」

それだけ言うと、身をひるがえし研究室の扉を開け、奈緒に顔を向けた。

言われるがままおずおずと研究室へ入ると、後ろで阿久津がゆっくりと扉を閉めた。

二人きりの空間に、鼓動が大きくなる。

顔が赤くなるのがわかる。

どうして、招き入れてくれたのだろう。

改まって、なにを話せばいいのだろう。

奈緒が目を泳がせていると。

「あの鉛筆は、公務員試験の前に渡すべきでしたね」

阿久津は持っていた資料や筆記用具を自分の机に置きながら、さらりと言った。

「いえ、そんな……」

何度も首を横に振る。

「ひとまず進路が決まって、安心しました」

「……ありがとうございます。ご心配おかけしました」

ちらりと阿久津を見上げると、穏やかなまなざしを向けていた。

出会ったころには想像もできなかった、瞳。

突然、胸がぎゅうっと締めつけられた。