「祈っていますから」
と言って、阿久津の大きな手が奈緒の手と鉛筆を優しく包み込んだ。
阿久津のひんやりとした手の感触に、奈緒の心臓は飛び跳ねた。
突然の出来事に、なにがなんだかわからなくなり呆然としてしまった。
ゆっくりと顔を上げると、阿久津は静かに微笑んでいるように見えた。
その穏やかな顔を見たとたん急に恥ずかしくなって、とっさに目をそらし「ありがとうございます」と呟いた。
一般教養の試験が終わり、ふぅと深呼吸をした後、鉛筆を筆箱に戻すと、あの時、その鉛筆を握らせた阿久津の手の感触が戻ってきて、思わず手を擦り合わせてしまった。
頑張らなくちゃ。
合格しなくちゃ。
自分のためにも。
阿久津先生のためにも。
奈緒はそっと頬を叩いて気合を入れた。