奈緒にキスしたことが頭をよぎる。

いくら弱っていたからといって、自分の学生に手を出してしまうなんて。

教育者として、失格だ。

自分を見つめる奈緒の切ない顔が浮かぶ。

心が揺れている自分に呆れてしまう。

最低だ。

俺は人を、妻を、殺したのに。

うなだれている阿久津を、美咲はただ見守っていた。

「ねえ、涼介さん」

阿久津の顔をのぞき込む。

阿久津はちらりと目だけを美咲に向けた。

「とりあえず、飲みましょ。食べましょ。ね」

美咲はできるだけ穏やかな笑みを浮かべた。